批評の意味〜ベンへ贈る言葉〜/サッカー日本代表
 「サッカーは主観のスポーツ」とよく言われる。



 選手・スタッフはもちろんマスコミ、サポーター、それに一般の人たちまでが、思い思いにサッカーを語る。僕はこれほど様々な視点から、注目を集めるスポーツを他に知らない。100人いれば100通りの批評があって、そのどれもが大なり小なり納得できるところがある。そして、誰も100%の正解は出せない。だからサッカーは面白い。



 しかし、だからと言って、好き放題に論じていいわけではないと思う。アジアカップの準決勝でサウジに敗れ、敗戦後に決まって噴出する戦犯探しを横目に見ながらそんなことを考えていた。



そんな折り、友人のベン氏よりこんなメールが来た。

 昨日の試合の評価はどうでしょうか?



 一日経って改めて考えてみました。日本は7人で攻めてサウジは7人で守る。サウジは3〜5人で攻めて日本は7人で守る。結果日本の方が疲れるのが早かった。それもサウジの方が走って前の方からのプレスが効いていた分、後ろは守りやすく、日本はボランチ付近の横パスやサイドチェンジが多くて逆に動いて疲れてしまった。

 選手としては日本のサイドバック二人が気になった。クロスの精度低いしフォワードを生かせなかったと思う。俊輔と遠藤も前に行く意識というか点をとるプレーが見られない。四人ボランチがいたような感じがした。

 ケンゴも贔屓目に見ても良くなかった。ジュニーニョとやるみたいに簡単にワンツーして裏に走りたそうだった気がした。

 最後に綺麗に点をとろうとしてるし縦に行くとかチャンスを作りに行かないと昨日みたいにセットプレーでしか点が取れないと思う。後は高原の個人技頼りみたいなさ。



 これもひとつの考えだ。ただ、これは批評なのか、批判なのか、それとも非難なのか。それをゆっくりと整理してみた時、彼のメールは「批判に近い感想」という結論で僕の心には落ちた。



■印象と事実の整理



 日本は7人で攻めてサウジは7人で守る。サウジは3〜5人で攻めて日本は7人で守る。結果日本の方が疲れるのが早かった。それもサウジの方が走って前の方からのプレスが効いていた分、後ろは守りやすく、日本はボランチ付近の横パスやサイドチェンジが多くて逆に動いて疲れてしまった。

 試合後のインタビューでオシムは「残念ながら疲労が選手を上回ってしまい、特にチームの中心の重要な選手がそういうことになってしまった。疲労から集中力が失われたり、アイデアが出なかった。(中略)日本は攻撃をしていて、得点が決まらないうちに疲労が溜まってしまった。」と語っていた。
 一方で遠藤は「疲れは相手も一緒。」と語った。



 日本選手が疲れていたのは確かだが、これはアジア杯開幕前のJリーグの日程や、移動、環境、個人のコンディショニングの問題もある。試合展開の一言で括れる問題ではない。また、「前からのプレスが効いていた」ならば、カウンターを何度も繰り返したサウジのFWは誰よりも疲れていたんじゃないだろうか?



 この試合のボール支配率は日本が66.1%。サウジがプレスを開始するラインは自陣に入ってからで、完全に守ってカウンターの試合展開だった。これを「前からのプレス」とは言わないだろう。




 選手としては日本のサイドバック二人が気になった。クロスの精度低いしフォワードを生かせなかったと思う。俊輔と遠藤も前に行く意識というか点をとるプレーが見られない。四人ボランチがいたような感じがした。


 駒野、加地のクロスという最後の仕事しか見れていない。JFA STATSという日本サッカー協会公認データを見て欲しい。
ボールタッチ数ボールを奪った回数ボールを奪われた回数シュート数(枠内)
加地15026210
駒野16132161(0)
憲剛(88'out)1138113(2)
俊輔11711201(0)
遠藤969190
鈴木8612100
29580
高原517181(0)
羽生(74'in)22172(2)

 「クロスが悪い」のは否定しない。しかし、上表のボールタッチの多さにも注目して欲しい。以前、仕事でデータを取っていた経験から断言できるが、サイドバックがこれほど多くのボールタッチを記録するのは異例だ。
 更にふたりは、ドリブルで抜いていくタイプのプレイヤーではない。これほどまでにタッチが増えた原因として、抜け出す前の組み立ての段階で、ボールを預けられていたとは言えないだろうか。クロスへ至るまでの過程で、必要以上のエネルギーを割かなければならなかったのではないか。ふたりを活かせる形が作れていたかを見ずに、クロスが悪いの一言で片付けてしまうのはどうだろう。
 また、これほど多くボールに触れる=攻撃に参加しつつ、ふたりが最もボール奪取が多い点も見逃してはならない。守備での貢献は評価されてしかるべきだ。



 ケンゴも贔屓目に見ても良くなかった。ジュニーニョとやるみたいに簡単にワンツーして裏に走りたそうだった気がした。

 ケンゴは試合を重ねる度に良くなっていったように見えた。52分にはキーパーをひやりとさせるミドルを打っている。中盤では誰よりもリスクを冒しているのが、シュート数に表れていた。数字に残らない縦へのフリーランも、幾度となく繰り返していた。ランのみをみればそれほど効果的ではなかったかもしれないが、中盤にスペースを生み出し周りのキープを楽にしていた。
 そこで囮になるなり、ワンツー・スリーで第3の動きになれる可能性はあったが、それが形にならないのは裏にスペースがないことと連携から来る問題で、ケンゴだけの責任ではない。



 最後に綺麗に点をとろうとしてるし縦に行くとかチャンスを作りに行かないと昨日みたいにセットプレーでしか点が取れないと思う。後は高原の個人技頼りみたいなさ。

 オシムも言っている通り、アイデアが足りなかったのは事実だと思う。ただ、サウジがセットプレイ時やクロスが入った際にボールウォッチャーになる点は、試合前から報道されるほど知れ渡っていた。
 「セットプレイでしか点が取れない」と嘆くより「しっかりと弱点をついた」ことを誉めるべきだ。また、攻撃については守備よりも圧倒的に個人技の比重が高い。なぜ、クラブチームのFWには外国人が多いのか。なぜ、攻撃陣の選手の年俸は高いのか。そういう視点も必要だろう。そう考えれば、反省すべきは攻撃陣ではなく、3失点を喫した守備陣と言えないだろうか。





■サポーターとして


 ここまで、ベン氏とは逆の視点で捉えてみた。あげ足とりに近いけれど、これもひとつの見方だ。僕の言うことも、彼の言うことも間違っているとは思わない。正に「サッカーは主観のスポーツ」と言われる所以に思う。
 ただ、その上で彼に振り返って欲しいのは「一日経って改めて考えてみました。」の結果、選手をこき下ろすだけの根拠があなたの中に本当にあったのか、という点だ。
 彼にしてみれば、「こう思うけど、どうだろう?」という軽い問いかけをしたに過ぎないと思う。しかし、その中で選手を非難するならば、せめて悪いと思った根拠をもう少し掘り下げるべきではないだろうか。



 日常生活でもそうだが、人の欠点はよく見える。完璧な人間などいないのだから、アレはダメ、コレはダメと言うことほど簡単なことはないと思う。ビデオで見返したわけでもない、まして現地で見たわけでもない。それで語れることなど、自分も含めてたかが知れている。



 ならば、少しでも良いところを探してはどうだろう。良かった点、悪かった点を見極めた上で、批評をしてはどうだろう。感覚・感情で批判をするのは簡単だけれど、それはただの感想で自己満足でしかない。


 それではあなたの批判は、誰の心にも届かない。


 たまたま同じように思っている人と「そうだよね〜」で終わりだ。このメールの返答に、まさかそんな言葉が欲しいわけではないだろう。


 彼は毎年シーズンチケットを買い、せっせと等々力に通いつめている。日本代表の試合も欠かさずテレビで観戦する、立派な日本サッカー界のサポーターだ。そんな彼が考えた末の結論として出した答えが、根拠に乏しい選手批判では余りに寂しいと思うのだ。







 「本当にそれでいいのか?」と僕は彼に問いかけたい。







 非難も賞賛も、しっかりとした土台がなければ意味がない。アジアカップで再認識した日本の立ち位置は、期待を裏切る物だったかもしれないが、そこから進んでいくしかない。Jリーグが出来てから、喜びも挫折もそこそこ味わった僕らは、そろそろ次のステップに進んでもいい頃だ。







 時には厳しい批判を浴びせたっていい。そこにほんの少しのロジックと愛を加えよう。僕らが好きなサッカーと日本代表に、敬意を欠くようなマネはお互いもうやめよう。サポーターとして出来る批評なんてたかが知れていても、そんな気持ちがあればきっと誰かの心に届くと思う。


 そんな人が増えることが、僕たちが望む「強い日本代表」への小さいけれど確実な一歩になる。僕はそう信じているし、あなたにもそうであって欲しいと願っている。
【2007/07/31 19:30 】 | サッカー日本代表・その他 | コメント(0) | トラックバック(0) | page top↑
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